「同志少女よ敵を撃て」は、2022年本屋大賞の大賞を受賞しました。
本作は新人賞である第11回アガサ・クリスティー賞の応募作で、満場一致で大賞を受賞して出版されています。
舞台は、独ソ戦真っ只中のソ蓮です。
ソ蓮で狙撃手とならざるを得なかった女狙撃手の半生を大胆なアクショクンと濃密な人間模様、さらに緻密な時代考証で描いています。
クライマックスである独ソ戦の要(かなめ)となった「スターリングラード」の描写はミステリーとしての伏線回収もさることながら、実写映画を観ていると錯覚させるほどです。
しかしそもそも「本屋大賞とは?」「同志少女よ敵を撃てとは?」といった疑問を抱く方もおられるので、最初にそちらにお答えしております。
それからあらすじ、そして重要なカギを握るキャラ「ミハイル」をご説明します。
最後は「実話なのか?」という最大の疑問を解決する内容になっていますので、ご覧ください。
第三章の「ネタバレ解説」からネタバレになりますので、未読の方はお気をつけください。
本屋大賞とは
本屋大賞とは2004年に設立された文学賞です。
その運営は、NPO法人・本屋大賞実行委員会が行っています。
ユニークな点は他の文学賞のように作家や評論家ではなく、文字通り「本屋の書店員」さんが毎年、大賞を選んでいる点です。
選考は投票です。
なお、2022本屋大賞はこのような結果になっています。
2022本屋大賞にランクインした「六人の嘘つきな大学生」は、こちらの記事でご紹介しています。
本屋大賞2022六人の嘘つきな大学生ネタバレ考察ヨウイチ解説
「同志少女よ敵を撃て」本屋大賞受賞
「同志少女よ敵を撃て」は、「2022年本屋大賞」の大賞を受賞しました。
作者は、逢坂冬馬(あいさか・とうま)先生、出版社は早川書房です。
本作は、2021年11月17日に刊行されました。
作者の逢坂冬馬先生は本作で新人賞を受賞してのデビュー作となります。
新人賞受賞作では他に、2009年の湊かなえ先生の「告白」があります。
しかし本作は「告白」より早い、デビューして5カ月という最速記録を樹立しているのです。
「同志少女よ敵を撃て」ネタバレあらすじ
「戦いたいか、死にたいか」
主人公の少女・セラフィマは18歳の少女で、母と二人暮らしです。
母に狙撃を教えられ、狩りをして暮しています。
時代は、独ソ戦の真っ只中。
セラフィマはドイツ語が堪能なので、就職も決まっており、順風満帆な人生--のはずでした。
ある日、狩りをしていると、住んでいる村がドイツの兵士=ナチスに襲われます。
母親を含む村人たちはナチスに命を奪われるも、セラフィマは参上したロシア兵に命を助けられます。
そのロシア兵を率いていたのが、女兵士にして伝説のロシア人狙撃手、「イリーナ」でした。
イリーナからセラフィマは2択を迫られます。
「戦いたいか、死にたいか」
セラフィマは戦うことを選び、イリーナについていきます。
この時、諸事情からイリーナはセラフィマの思い出を焼き払ったため、彼女もまたセラフィマの復讐対象になります。
セラフィマは母の命を奪ったドイツ人狙撃手と上官にして教官のイリーナへの復讐を胸に秘めたのでした。
そしてセラフィマはもう一つ「女性を守る」と誓います。
この誓いに忠実だったので、彼女は戦場で「本当の敵」と遭遇することに……。
狙撃兵養成校と仲間達
セラフィマは、狙撃兵養成校に入学します。
この学校はイリーナを始めとするロシア有数の狙撃兵が教官を務めるエリート養成校です。
そこでセラフィマは、今後ともに戦う仲間を得ることになります。
シャルロッタ:人形のように美しい少女。モスクワ射撃大会で優勝した経験あり。
アヤ:飛び抜けた狙撃の才能の持ち主。部屋を片付けられない。
オリガ:狙撃兵養成校で同期のフリをしながら反体制派を狩る秘密警察の一員。
ヤーナ:28歳。子ども二人をナチスに奪われる。
ターニャ:セラフィマがいる狙撃小隊の看護師。イリーナに「戦いたいか、死にたいか」と二択を迫られ、看護の道へ。
激しい戦闘で仲間達を失う日々
セラフィマ達、狙撃小隊は初陣で戦車を守る戦いに参加します。
その戦闘で、才能だけに頼ったアヤは敵の戦車にやられてしまいます。
彼女はイリーナの教え「戦場で自分だけが賢いと思うな」を忘れ、同じ箇所にとどまって狙撃し続けてしまったのでした。
戦況は悪化し、戦友や民間人の被害が拡大します。
スターリングラード
スターリングラードは、独ソ戦最大の激戦区です。
その決戦の舞台となったスターリングラードのケーニヒスベルク包囲戦。
この戦いで、セラフィマは母の仇であるドイツ人将校との決戦に挑みます。
憎まれ役だったオリガは最後にその身を犠牲にして、セラフィマに狙撃のチャンスをあたえます。
セラフィマは見事、狙撃を成功させ、仇を討ちました。
しかし、セラフィマの顔は晴れません。
ヤーナが少年兵に刺されて重体でもあるのですが。
本当の敵「女性を守る」
「女性を守る」と誓ったセラフィマは、この独ソ戦で両軍の兵士が女性に暴行する場面に出くわしています。
ケーニヒスベルク包囲戦に勝利したソ連兵は、歓喜に酔いしれます。
そして、ドイツ人の捕虜に暴行を働きそうになります。
それを見つけたセラフィマは、同僚であるソ連軍の兵士を狙撃したのです。
この狙撃で撃たれて命を落としたのが、セラフィマの故郷の幼馴染である「ミハイル」でした。
シスターフッド「同志少女よ敵を撃て」は百合
シスターフッド:女性同士の連帯
ミハイルを狙撃したセラフィマでしたが、イリーナが事実を隠蔽したお陰で問題にならず、故郷の村へ帰ることに。
セラフィマは帰郷にあたり、新天地を求めるイリーナを口説き落として、同棲を始めます。
百合、なのです。
百合とは女性同士の同性愛のことです、美しいですよね。
結末だけではなく、セラフィマとシャルロッタのキスシーンも何度か出てきて、ドキドキします。
女性だけの狙撃小隊なので、百合になるのは当然なのかもしれませんね。
ミハイルの最後を解説
ミハイルは、セラフィマと同郷で幼馴染の青年です。
彼はケーニヒスベルク包囲戦までは、なかなかの好青年です。
しかし、伏線はありました。
ミハイルは第六二軍第一三師団・第一二歩兵大隊の兵士として、セラフィマの命を助けます。
その夜。
兵士による女性捕虜への怒りを露わにするセラフィマにミハイルはこう答えます。
「その場にいたら、仕方ないのかもしれない。その輪に加わなければ、村八分にされる」
こうしてミハイルは、ケーニヒスベルク包囲戦の女捕虜を率先して暴行しかけたのです。
「同志少女よ、敵を撃て!」の「敵」とは?
同志少女=セラフィマの「敵」は戦争でした。
同時に「女性の人権を蹂躙する者達」でした。
タイトル回収として、セラフィマは「敵」であるミハイルを撃ったのです。
「同志少女よ敵を撃て」は実話?
「同志少女よ敵を撃て」は実話ではありません。
しかし、出てくる戦争は全て実話です。
さらに有名な軍人や作家もまた、実際に存在した方々でした。
リュミドラ・パヴリチェンコ:ホワイトハウスにも招待された経験を持つロシアの伝説スナイパー。
リュミドラ・パヴリチェンコの活躍は、映画化されています。
スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ:「戦争は女の顔をしていない」の作者。
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