退院支援とは「退院支援看護師の役割」退院支援加算とカンファレンス

医療と退院

「親を1日でも長く入院させてくれ!」

「親をずっと入院されてくれ!」

「この病院が気に入っているのに、どうして転院しないといけないんだ!」

病院で「退院支援」や「退院調整」に関わったスタッフが、毎日浴びている言葉です。

「なぜ、退院しないといけないのか?」という疑問について、結論を出します。

あなたの親が退院しないと、入院ベッドが空かず、救急車がたらい回しになるからです。

また入院生活は、入院ベッドの上で行います。
ベッドが「生活の基盤」になるので、筋力が衰えます。
その結果、親御さんが自宅で普通に行えていたことが行えなくなります

親の面倒を見たくない気持ちもわかりますが、助け合いの精神を無くしたら、 救える命が救えなくなります。

さらに、自分の親の認知機能や行動する力を下げる権利は、子供にないはずです。

患者の家族の方々への記事は、ここまでです。

ここからは以下の方々に役に立つ記事になっています。

・「退院支援」や「退院調整」に関わっており、その大変さに自分を見失いそうな方
・支援に関わっていて最新の情報を知りたい方々
・「退院支援」「退院調整」に関わりたい「福祉専門職」や「医療専門職」の方
退院しないクレーマー患者に手を焼く医者

退院支援とは

入院すれば必ず、退院しなければなりません。

「病院看取り」を 支援している方々もいますが、死亡も退院だからです。

退院支援は大きく、二つに分かれます。

①入院中の丁寧な医療処置
②入院で「元気だった人」が「介護が必要な人」になったので、 本人や家族に安心・安全な退院を提供する。

大枠はこの2つですが、 昨今の退院支援の実例を見ていきましよう。

患者本人・家族の心のケア「社会資源の有効活用」

MSW (医療ソーシャルワーカー)時代の実践例をご紹介します。

傾聴

その高齢女性は元気に登山を楽しんでいました。
しかし登山中に転倒して、足を骨折しました。

整形外科を受診して手術を受けたものの、 歩行能力が完全に元に戻る可能性はゼロになりました。

医者の説明を悪かったのか、患者本人は非常に落ち込みました。
そこで私は、患者本人の「お話」を1から10まで聞きました。

世間話や退院に関係の無い話もたくさんありましたが、とにかく「お話」を聞きました。

医療や福祉の関係者は、学校で嫌というほど「傾聴」の重要性を叩き込まれますが、「忙しい」を理由に現場で実践できていません。

相手の話を「傾聴」することで初めて、人間関係が築けます。

この高齢女性は、私が話を聞き、介護保険の説明も行ったので穏やかな顔をしておられました。
リハビリにも熱心に取り組んでいました。

ところが事態は急展開します。

親が認知症になった

私は患者本人や家族に「早く退院した方がいいですよ」と提案しています。

その理由は生活が「入院ベッド」 だと筋力が落ちてしまい「できる行動」ができなくなるからです。

また病院での生活は、刺激がありません。
「高齢者の認知症発症」の最悪のトリガーです。

今回の高齢女性は、口数がだんだん乏しくなっていきました。
それに伴い、表情も乏しくなっていきました。

一緒に病棟を散歩したりしましたが、認知症の進行を抑えることはできませんでした。
認知用の詳細は、この記事をご覧ください。
認知症とは「認知症の初期症状と種類」認知症ケア

女性高齢者が認知症になったことで、家族に介護の負担が生じます。

医師・看護師・ MSW の私から、「親が認知症になった」と聞かされた家族は大変なショックを受けました。

しかし現実問題として、認知症の親を自宅で介護しなければなりません。

そこで私は、介護保険について説明しました。

介護保険の詳細は、この記事をご覧ください。
ケアマネジャー受験資格「求人と給料」試験日「医者もケアマネ!」
介護福祉士になるには「受験資格と難易度」試験日と合格率
社会福祉士の学校とは「合格率と社会人は夜間か通信か」試験合格!

「家族だけで介護しなくていいんだ」これを知った家族は、退院に向けてケアマネージャーと相談し、安心して親を退院させることができました。

この退院支援が上手くいったのは、 看護師や私が患者の状態を「早期発見」したからです。

患者の日々の変化を電子カルテに打ち込むことで、スタッフで情報を共有することができたからです。

退院支援の基本は、早期発見です。

そして情報の共有です。

情報の共有は「アナログ」=「紙カルテ」 では限界があります。

電子カルテを導入している医療機関のほとんどですが、「情報共有」を念頭にフル活用する余地がないか、今一度、見直しをすることをお勧めします。

高齢者の介護度が上がった

すでに介護保険を受けている高齢者であっても、 入院の原因となった「疾病」や「怪我」で介護度が上がるケースが非常に多いです。

介護保険の介護度とは

介護保険の介護は、3パターンに分かれます。

非該当

介護保険のサービスが必要ない(サービスを利用するなら、全額自己負担)

要支援1~2

介護保険のサービスは必要だが、本格的な運用は認めづらい。
例)デイサービスに通える回数上限がある。

介護1~5

介護保険のサービスが、本格的に必要である。
例)介護2からベッドのレンタルができる。介護3から施設に入所できる。

介護度を上げるにあたって、メリット・デメリットがあります。

介護度を上げるメリット

金額は分かりやすいように、適当な金額を設定しています。

介護1なら⇒3割負担で済むサービス利用料の上限を5万円までとする。

介護2なら⇒3割負担で済むサービス利用の上限額を10万円までとする。

介護度を上げるデメリット

介護保険の各サービスの単価が上がります。なぜ上がるかというと「介護の手間」が増えるからです。

デメリットがありますが、福祉用具のベッドを貸与で利用したいのであれば、介護2は必要になります。
福祉用具については、この記事をご覧ください。

特別養護老人ホームなどの施設入所には、介護3以上が必要です。

高齢者の医療依存度が上がった

入院前までは「デイサービス」や「訪問ヘルパー」などの「福祉サービス」だけでよかった高齢者が、 医療措置が必要になるケースが頻発しています。

この状態を「医療依存度が上がった」と言います。

具体例

・人工肛門の造設
・寝たきりの状態だが、褥瘡に軟膏を塗布しなければならない
・点滴が必要である

医療依存度が上がると、「訪問看護」のサービスが必要不可欠になります。

訪問看護:看護師免許を持つ者が、介護状態にある高齢者の自宅を訪問して、医療行為を行うこと

褥瘡への軟膏塗布や人工肛門の管理については、入院中に家族へ指導することもできます。

ただし内容によっては、「訪問看護」どころか開業医に自宅に来てもらう必要性が生じます。

医者が自宅に来て医療行為を行うことを「往診」と言います。
往診する開業医を家族で見つけるのは困難です。

私は、開業医が行なっている講演会や「オープンベッド」で開業医と人脈を作り、当院の入院患者の「往診」を依頼していました。

国の政策として、入院ベッドは縮小されます。
それに伴い、高齢者の医療依存度は上がる一方です。

退院支援行うスタッフは、「往診医」や「訪問看護」のスタッフと気軽に話せる人間関係を構築することが重要です。

この「人間関係」こそがかけがえのない「社会資源」になります。

転院支援

病院と一口に言っても、実は「機能」によって役割が違います。

転院調整は、大きく二つのパターンに分かれます。

①救急車を受け入れる病院⇒リハビリ専門の病院

②救急車を受け入れる病院⇒透析に特化した病院

救急車を受けいる病院は、 入院ベッドを空けておく必要があります。
そのため、救急治療が終わった患者さんで、リハビリや透析が必要な方は、それに特化した病院へ転院してもらいます。

転院調整で大事なことは、2点あります。

①患者さんに、なぜ「転院」が必要なのか理解してもらう。
※医者からの説明が1番効果あり。

②転院先の「担当者」が変わっても「ルール」が変わらないようにする⇒「転院調整パス」を作成する。

退院支援を行っている医療機関では、①②は当たり前に行えているはずです。

ところが現場では、 揉めます。

揉める原因の大半が「医者の説明不足」です。

医者の説明=「IC」 は患者が納得するまで、繰り返し行うことが必要です。
「IC」 で躓くと、退院支援は絶対にうまくいきません。

クレーマーに近い患者がいる場合は、「数の力」で対応することも有効です。

具体的には 「IC」 の際、「主治医」だけではなくコンサルタントで入った医者や研修医、関わった看護師長や看護師全員、 MSW を総動員します。
それでも足りないようであれば、 医事課のスタッフも動員します。

「なぜ事務職?」と思われた医師や看護師も多いでしょうが、事務職に医療説明させるわけではありません。

クレーマーに近い患者に対して「当院は一致団結して事に臨んでいます」と見せ付けることは、効果があります。

最期をどこで過ごすか?

「孤独死」や「在宅看取り」、「終末期」といった言葉をよく聞きます。

人間は必ず死亡するので、「最期の場所」を決めておくことは非常に重要です。

「慣れ親しんだ自宅で最期を」とはよく聞く言葉ですが、患者本人や家族が望んでいない場合に、それを強いるのは「残酷」です。

特に「終末期」の場合は、「疼痛コントロール」など医療依存度が高まります。

この場合でも「在宅看取り医」を利用することで、自宅で最期を迎えることは可能です。

「看取り医」がいるので、「変死」として警察が介入することもなくなります(24時間以内に医者が死亡診断書を出した時に限る)。

MSW だった頃は、患者の家族と「最期の場所」についてよく協議しました。

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ホスピスに転院してもらったこともあります。

また当院では、退院支援に60日間の猶予がもらえる「地域包括ケア病棟」があったので、当院で看取りを行った例もたくさんあります。

※ MSW だった時代に「地域包括ケア病棟」が新設されました。
私は当院の「地域包括ケア病棟」の立ち上げスタッフです。
立ち上げは大変でしたが、院内スタッフへの説明会などを通じて、軌道に乗せました。
「地域包括ケア病棟」は、「半年間で在宅復帰率が70%以上」などのルールはあります。
ですが「転院」 を行うことなく「院内のお引越し」で「在院日数の短縮」に繋がるので、お勧めです。

地域包括ケア病棟で緑が決まった患者さんでも、家族の心変わりで「最期は家で」と大逆転したケースもあります。

夕方に退院し、翌日の早朝に亡くなった人がいます。
このケースでは、貴族から非常に感謝されました。

「ばあちゃんの最後の夜、一族が家に集まって、一緒に眠ることができました」

退院支援看護師とMSWの役割分担

退院支援は「医師をリーダー」として院内スタッフで「チーム」を組んで行います。

「退院支援」が上手くいかない場合は「医師の説明」が上手く患者に届いていないケースが大半です。
前述したようなやり方も検討しながら、主治医は患者本人と家族に退院を納得させてください。

医師の説明に納得しても、退院に不安を持つ患者本人・家族は大勢います。
この辺りから「退院支援看護師」と「MSW」の連携が求められます。

退院支援看護師の役割

看護協会は「認定看護師」として「訪問看護」を位置づけています。
また新たに「在宅ケア」ができました。

勘違いをしてならない点は、退院は「認定看護師」が行うのではありません

入院機能がある病院に勤める看護師は全員が「退院支援看護師」です。

通常の看護をしている最中に、面会に来た家族から「介護保険」の相談を受けるシーンを度々見ました。
また家族の中には「A看護師の介護保険の説明が違う」と怒ってる人もいました。

今や看護師でも「介護保険の申請」と「訪問看護」などは、説明できて当たり前の時代になりました。

福祉系の詳しい説明は「MSW」に振ればいいのですが、担当している患者が「訪問看護が『医療』で入れるケースに該当するか?」は即答できる知識を持っていることが好ましいです。

看護師になったばかりの人は「福祉」よりもまず「看護」を学んでください。

どういうことかと言うと、「通常の看護」を丁寧に行うことが直ちに「退院支援」につながるからです。

先輩看護師から「患者に褥瘡ができないように体位交換しなさい」と指示を受けますよね?

「軟膏を塗るだけなのに……」と困惑した記憶はありませんか?

その患者は自宅に帰って、一人で軟膏を塗れる状態でしょうか?

「独居」が当たり前になった時代、「褥瘡への軟膏塗布」一つで「訪問看護」が必要なのかどうか決まってきます。

「訪問看護」を入れるにしても、褥瘡の状態が酷いまま退院させると、サービスの利用回数が増えて、患者の家族の負担が増します。

医療のホスピタリティに加えて、クレームの原因に直結します。

ですから新人の看護師の方は、とにかく「丁寧な看護」を覚えてください。

中堅以上の看護師は「訪問看護師との協議」が待っています。

「病院における看護の知識」だけではなく、「在宅での看護の知識」 を強く求められます。

「MSW」で働いていた病院では、地域包括ケア病棟の看護師を中心に「訪問看護」が始まりました。
実践した看護師が、一般病棟の看護師にフィードバックすることで「在宅での看護」への理解が深まりました。

お勤めの医療機関ではどうしても「在宅での看護」を勉強できない環境であれば「訪問看護師」へ転職するの一つの手段です。

お勤めの医療機関がお気に入りで「転職」に躊躇を覚える看護師がいますが、いつになっても、どの医療機関も看護師不足は解消できないので「訪問看護師」としての「知識」と「実践」を身につけて、カムバックする手段もあります。
とうきょうナースステーション
ナースネクスト

総合病院であろうと開業医であろうと、看護師も医者も「在宅医療」の知識はマストです。
「eラーニング」では忙しい看護師でも「透析技術認定士」「認知症ケア専門士」になる道が開かれます。

アステッキ|医療系資格試験教材の新規購入

「医者」や「看護師」であれば”5年”働いていれば「ケアマネージャー」の受験資格があります。
「ケアマネージャー」自体の仕事はしなくていいので、資格取得の勉強において「在宅医療」の知識と最新情報を身につけましょう。

開業医で「訪問看護」や「グループホーム」などビジネスを展開している医者は、「 ケアマネージャー」の試験に合格し、研修も終了しました。
その医者は「ビジネスのアイデアが湧いてきてしょうがない」と言っていました。

病院勤務であっても、相手にするのは、このような方々かもしれません。

「知識の理論武装」は必要です。

MSW の役割

MSW( 医療ソーシャルワーカー)は「社会福祉士」の資格を持っていることが当たり前です。
「社会福祉士」資格取得のために必要な知識は「福祉援助の現場」において、最低限、持っておかなければいけない知識です。

「MSW」は「社会福祉士」の知識だけでは、不十分です。

「シャント」と聞いてピンと来たり「腸瘻と腎瘻の違い」が分かっていないと、働けません。

特に現在は「透析の社会資源」についての知識は必須です。

医療の資格取得は難しいので、「とにかく電子カルテを見まくって、不明な点を仲がいい看護師に聞く」と言った地道な努力が報われたりします。

「ケアマネージャー」で「医療のことが分からないから退院させないでほしい」という、非常識な人種は絶滅したと信じたいところです。

「MSW」現役の頃は、こんな非常識を堂々という「ケアマネージャー」がたくさんいました。

現在は福祉職であっても医療の知識はマストです。

訪問看護師に色々教えてもらうなどして、医療の知識や実践を積み上げていきましょう。

医療系の資格でも、「介護福祉士」や「ケアマネジャー」を持っていれば取得できる資格があります。
認知症ケア専門士

退院支援加算

国の政策は「入院病床を減らして、社会保障の支出を減らす」です。

「在院日数を短くしなさい」という方針は「入院患者を早く退院させなさい。入院ベッドを減らしますから」ということです。

国の政策は「飴と鞭」です。

そこで「退院を一生懸命頑張っている医療機関には、加算をあげます」という制度が生まれました。

入退院支援加算1

1人の患者につき「600点」の加算がもらえます。
この加算を受け取るには、少なくとも次の条件を満たす必要があります。

・退院支援の専従職員を置くこと
(地域包括ケア病棟の専任職員と兼任できるので、私が行っていました)

・入院してから3日以内に「退院支援」が必要な患者には「退院支援計画書を作成すること」
(「3日以内の証拠」には「電子カルテ」使用せざるを得ません)

・入院してから一週間以内に「退院支援計画書」を「患者本人か家族」を説明して、署名をもらうこと

この加算の目的は「入院した時から退院に向けて準備をしなさい」です。

地域包括ケア病棟

地域包括ケア病棟では、1人の患者につき「2,558点」がもらえます。

地域包括ケア病棟は、入院した患者の在院日数を気にする必要がなく、「退院支援」の猶予も60日もらえます。

ただし地域包括ケア病棟の加算の条件は、なかなか厳しいです。
条件の一部をご紹介します。
・ 患者1人に対して看護師が10人以上いること
・専従のリハビリスタッフを設置すること
・半年の在宅復帰率が7割以上であること
・専従の退院支援の責任者を置くこと(私でした)

公立病院の方は、注意が必要です。
近畿厚生局の監査で「選挙事務に従事する事も許さない」と、叱られました。
「雪解け」が監査で引っかかるかどうかは、担当の厚生局や担当者によって温度差があるので、直接確認するしかありません。

退院支援カンファレンス

退院支援カンファレンスとは退院に向けて「患者の家族」「在宅スタッフ」「病院関係者」が集合して、情報共有を行うことです。

地域包括ケア病棟の要件でも、一般病棟で「退院支援カンファレンスの開催割合」が明記されています。

退院カンファレンスは一般的に、病院で行うことが多いです。
しかし「訪問看護」を行うようになってからは、患者の自宅で開催するケースも増えました。

「退院カンファレンス」が「退院の日程を決める」と勘違いしているケースが散見されます。
退院の日程は、何度も「退院カンファレンス」を重ねた上で、最後の「カンファレンス」で決めるものです。

「退院支援」に重きを置く医療機関では「入院初日」に「退院カンファレンス」を開く例もあります。

現在の「退院支援」が「入院初日から行うこと」と明確化されたので、早い時期から「退院カンファレンス」を重ねることは今後、 スタンダードになっていくでしょう。

「退院支援」はただ、在院日数を短くするためにあるのではありません。
患者の 「QOL(生活の質)」の向上を貪欲に目指すために存在しています。

また「孤独死」が当たり前になってきた昨今では「元気なうちから『最期の場所』を決めておく」ことが必須になってきました。

患者さん一人一人の豊かな生活の保障と「最期の場」を守るため、 積極的に「 退院カンファレンス」を利用して、地域と医療の連携を強化しましょう。

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