「此の世の果ての殺人」は第68回江戸川乱歩賞の受賞作です。
本作は次の”特殊設定”で話題になりました。
・小惑星「テロス」が3ヶ月後に落ちてきて、人類は滅亡する
・それなのに、主人公は自動車学校で免許を取ろうとしている
・人類は滅亡するのに、連続殺人が勃発する
これだけで充分、異色のミステリーといえるでしょう。
そんな本作を読了したので、ネタバレ無しのあらすじとネタバレありの結末をご紹介します。
個人的な感想もお送りします。
さらにネットで話題の「地上最後の刑事とは?」についても解説します。
また、作者の荒木あかね先生のご紹介と盛り沢山なので、最後までご覧ください。
「此の世の果ての殺人」あらすじ
2023年3月7日、小惑星タロスが地球に落下して人類は滅ぶ運命にあります。
人類滅亡を3ヶ月後に控えた、福岡県。
ハルは熊本県に行きたいので、自動車学校に通って免許を取っている最中です。
タロス落下で世界各地で暴動が起きて無法地帯となっているので、別に無免許でいいのですが……。
それでも律儀に自動車学校に通う、ハル。
そしてハルに運転を教えるのは、自動車学校の先生、イサガワ。
どっちも中々の奇人変人(以下、自粛)。
ハルのお母さんは家出をして行方不明。
お父さんは自殺。
弟の成吾は、自宅で引きこもり……。
そんなハルは教習中、教習車のトランクで死体を見つけます。
なぜか、手際のいいイサガワ先生。
イサガワ先生の推理で死体は女性弁護士だと推理できたものの、不明点は多過ぎました。
そこで二人は、ダメ元で近くの大宰府警察署を訪れます。
警察署にはキャリア警察官の市村がいました。
市村はイサガワ先生を”先輩”と呼びました。
イサガワ先生は、元刑事だったのです。
此の世の果ての連続殺人
市村によると、実は福岡で連続殺人が起きているのです。
一人目は高梨、17歳。
二人目は立浪、17歳。
イサガワ先生と市村の協議の末、捜査は続行となります。
市村は捜査の段取りを”ある程度”整えてくれました……。
太宰府署を出る時、市村はハルに「イサガワは正義感が強過ぎる」と耳打ちします。
携帯の電波が拾える病院
ハルとイサガワ先生は、検死を依頼するため、病院に向います。
その病院は福岡から避難できなかった高齢者が大勢いました。
高齢者の目的は、病院の屋上で拾える携帯の電波と病院にる医者でした。
医者が検死すると、死体の胃袋から名刺が出てきます。
彼女は殺されることを予期してか、自分の名刺を飲み込んでいたのです……。
彼女はイサガワ先生の推理どおり、弁護士でした。
彼女の名前は、日隅美枝子。
日隅の弁護士事務所を訪れる二人。
事務所でハル達は、日隅と”NARU”のメールをやり取りを発見したのでした。
連続殺人の捜査が始動!
訳アリの兄弟。
そして、一人ぼっちになった少女。
彼等を仲間にして、ハルとイサガワ先生の推理の旅が始まりました。
誰が殺したのか? ……地球は滅ぶのに。
なぜ殺したのか? ……人類は絶滅するのに。
なぜ犯人は犯行を隠すのか? ……社会秩序は崩壊しているのに。
”此の世の果ての殺人”に、ハルとイサガワ先生の”バディ”が挑みます。
▪️此の世の果ての殺人
荒木 あかね #読了世界が小惑星が衝突して滅ぶ。なんともビビる設定がそそる。皆は逃げてしまい、人がいなくなった太宰府で自動車の教習を受けている🚙小春。そこもまたビビるが、教習所の車のトランクに入っていた惨殺死体
教官イサガワと事件を追う
若者の実力が凄くビビる! pic.twitter.com/a84hYhR6aD— コナン ザ グソク ファルコニア (@sxLK2J9c27Wi52D) October 8, 2022
未読の方へ
ここから先は、ネタバレが詰まっています。
未読の方はぜひ、本書をご覧になったうえで、ここから先をご覧くださいね。
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「此の世の果ての殺人」結末
本作の結末について、ご紹介と私なりの感想です。
残念な犯人と弱い動機
犯人は、市村でした。
意外性は無かったものの、着地点としては妥当だと考えます。
問題だと感じたのは、市村の人物造形です。
「サイコキラーでした」……。
3ヶ月後に地球が滅びるとなれば、誰しも、感情は死にます。
100歩譲って、市村がサイコキラーであることは仕方ないとしても……。
市村の動機は何とかならないのでしょうか?
「この世の中、どれぐらい人を殺せば逮捕されるのか試してたんです」
……。
市村は警察キャリアで、統合調整官です。
素人ならともかく、彼は何人殺しても、逮捕されないと分かっていたはずです。
江戸川乱歩賞なので、被害者や犯行と密接に結びついた動機が欲しかったところす。
読後感は最高
本作の読後感は最高です。
といっても、大団円ではありません。
仲間の一人、光は市村に殺されましたし。
何と言っても、地球滅亡&人類絶滅は変わりません。
それでも、光明を見い出せる、素敵な終わり方でした。
ハルは望遠鏡を買いたくて、熊本に行きたかったのです。
そのために、免許を取りに行っていました。
ハルにとっての望遠鏡の思い出は、家出して行方不明の母&自殺した父との思い出に他なりません。
それでもハルは最後まで、家族との思い出を大切にしたいと願っていたのです。
それは本作を一貫して流れていた、弟・成吾への想いと同じでした。
「此の世の果ての殺人」感想
本作の感想を私なりに記します。
異色のバディミステリー
何といっても本作最大の魅力は、ハルとイサガワ先生の異色の”バディ”小説である点です。
人類が滅亡するのに、
ハル⇒免許を取りに行く
イサガワ先生⇒一人、自動車学校で運転を教えている
シュール過ぎる二人のコンビは最後まで、最高でした。
イサガワ先生の行き過ぎた正義。
ハルの純粋で天真爛漫なところ。
そんな”バディ”に惹かれていく仲間達。
意外と人情味ある作品に仕上がっています。
「善意にかけろ!」愛おしい地上最後の仲間達
ラスト、市村に捕まったハルを助けたのは、イサガワ先生と光、銀島以外にもう一人います。
それは自販機を壊して回っていた人間です。
その人間がハルの悲鳴を聞きつけ、何と110番したのです(!)。
世界が終わるのに、110番……。
そんな110番通報で動いた銀島もあっぱれ!
携帯の電波が届くというだけで、病院に集まる高齢者。
下手クソな演歌を歌って、ヘラヘラ笑っている暁人と光の兄弟。
息子の死を受け入れられない母親と彼女を悪用する元教師。
逃げ遅れた人々で”村”を作り上げた国会議員。
人類滅亡までに連続殺人の犯人を逮捕する自動車学校の先生。
全ての人々に振り回らせながらも愛される主人公。
多くの愛すべき人物たちに彩られて、本作は輝いています。
荒木あかね『此の世の果ての殺人』#読了
小惑星の衝突により2ヶ月後に世界が終わるという状況で殺人が起きるSF推理小説。
秩序が乱れ無法地帯な中で、主人公達が真実を求めて奔走する姿や
読後感の爽やかさが、凄く良かった。
続編やスピンオフなど、もし発表される機会があれば読んでみたい…! pic.twitter.com/XYubNdaZu5— ゆかぽん (@ydajoe) October 7, 2022
地上最後の刑事とは?
本作はもう一つ、ネットで話題となっているワードがあります。
それが「地上最後の刑事」です。
どういうことなのか、見ていきましょう。
本物の刑事が地上最後の刑事ではない!
本作で純粋に”刑事”=”警察官”と呼べるのは、次の2人だけです。
- 市村(福岡県警太宰府警察署・統合調整官・東大卒のキャリア)
- 銀島(福岡県警博多北署・少年課少年事件捜査係・巡査部長)
このうち、市村は本作の犯人なので、”地上最後の刑事”に相応しくありません。
”地上最後の刑事”=”地上最後の探偵役”だと考えるからです。
銀島はいい味を出していますが……。
特に推理などで活躍する機会はないので、省いていいでしょう。
そうなると、”地上最後の刑事”と呼んでいいのは、これからご紹介する2人となります。
予想外の刑事役
1人は、イサガワ先生です。
現在は自動車学校の先生ですが、元刑事です。
本作の探偵役でもあります。
元刑事はミステリーに大勢いますが、自動車学校の先生は史上初ではないでしょうか?
そういう意味では、”予想外の刑事役”です。
しかし彼女の行き過ぎた正義や推理力は”地上最後の刑事”の称号に相応しいといえませんか?
ハルも刑事役!?
ハルは23歳。
職歴は元営業職で、現在は無職です。
”刑事”と呼べるか、厳しいラインかもしれません。
しかし、正義を暴走させるイサガワ先生の止め役として重要な役割を果たしています。
そしてミステリーには、ホームズ役の他にワトソン役は必須です。
ハルはこのワトソン役を担っています。
他にもハルは重要な仕事をしています。
- 第一の被害者の発見役
- 弟の成吾を説明できる
- 市村を生かして捕えた
- 食糧の配給役
最も大事なのは、読者目線でイサガワ先生の推理を引き出した点でしょう。
本作はハルとイサガワ先生の”バディ小説”です。
ということは、イサガワ先生が”地上最後の刑事”であれば、相棒のハルも自動的に……。
ちょっと強引過ぎましたか?
荒木あかね先生の紹介
荒木あかね先生は、1998年生まれの23歳です。
荒木先生は福岡県のご出身です。
なので、本作の舞台は福岡になったのでしょう。
どう考えても、福岡の地理に詳しくないと本作は書けないと考えます。
『此の世の果ての殺人』で第68回江戸川乱歩賞を受賞した23歳の新星・荒木あかねさんにお話を伺いました!
二か月後に地球が滅亡する世界でおきた殺人事件。
どうせ滅亡するのにどうして人を殺したのか?女性バディもの×本格ミステリ!https://t.co/kC30RPiFjk#此の世の果ての殺人 #荒木あかね pic.twitter.com/2EKJ0aiq4U
— tree (@tree_edit) October 7, 2022
荒木先生の学歴ですが、九州大学・文学部をご卒業されています。
偏差値は70~74なので、荒木先生がとても頭のいい方なのが分かります。
史上最年少(23歳)での江戸川乱歩賞受賞者となり、今後がもっとも期待される作家ですよね。
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