本屋大賞2021「海をあげる」あらすじと意味解説&星野源が対談

海をあげる本屋大賞 小説
海をあげる本屋大賞

2021本屋大賞を受賞したのが「海をあげる」でした。

「海をあげる」はノンフィクションなので、正確には「本屋大賞2021 ノンフィクション本大賞」になります。

沖縄で生まれ沖縄で育った琉球大学の上間陽子先生の作品なので、非常にメッセージ性が強い作品です。

私は本屋大賞受賞で本作を知りましたが、本当に「読んで良かった!」と思える素晴らしいノンフィクションです。

終章で語られるタイトル「海をあげる」の意味が分かったときは、鳥肌が立つほど感動し、反面、自分の無知が恥ずかしくなったものです。

作者の上間陽子先生が歌手の星野源さんと対談したことでも話題になっています。

今回はそんな「海をあげる」のあらすじと意味の解説をお送りします。

未読の方はあらすじまでお読みください。

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本屋大賞2021「海をあげる」あらすじ

主人公・上間陽子(以下、陽子)は東京で暮らしていますが、夫の浮気に苦しんでいます。

夫の浮気相手は何と、陽子の女友達でした。

その女友達はさらに、陽子の近所に住み、浮気は四年間も続いています。

友達に相談すると「離婚やな」とキッパリ言われます。

さらに友達からは「陽子、自死したらアカンで」と忠告までされます。

ある夜、陽子は夫と二人の”これから”について話し合います。

果たして陽子と夫は、どんな結論を出したのでしょうか?

そして沖縄に帰った陽子を待ち受ける、過酷な”沖縄の現実”とは?

陽子と娘は、辛い沖縄の現実を前に何を感じ、どう行動するのか?

「海をあげる」の意味とは?

ノンフィクションだから胸を打つ、静かな迫力。

最後の一行で作者への読者の想いは粉々に砕かれる結果になります。

ネタバレ解説は後述いたしますので、未読の方はぜひ本書を手に取られてから、次へお進みください。

本屋大賞2021「海をあげる」意味解説

終章のタイトルが「海をあげる」です。

この終章では、上間先生の想いがあふれます。

・娘のこと
・家族のこと
・性犯罪
・若い女性が風俗におぼれる現実と真実
・普天間基地移転
・辺野古基地移設
・沖縄の青い海に赤い土砂が流れ込む

全てに共通するのは「沖縄」です。

そんな終章からラスト3行を抜粋します。

私は静かな部屋でこれを読んでいるあなたにあげる。
私は電車でこれを読んでいるあなたにあげる。
私は川のほとりでこれを読んでいるあなたにあげる。

この海をひとりで抱えることはもうできない。

だからあなたに、海をあげる。

そして上間先生は「あとがき」のラスト2行で、こう読者へ語り掛け、思いを託します。

この本を読んでくださる方に、私は私の絶望を託しました。
だからあとに残ったのはただの海、どこまでも広がる青い海です。

このメッセージを残酷に感じる方も多いとは思います。

それはきっと、本書のタイトルが「海をあげる」と一見、優しく見えてしまうからです。

さらに目次だけ見れば「美味しいごはん」「きれいな水」「波の音やら海の音」など、「面白くて優しいエッセイかな?」と思わせる瞬間があるからです。

断言して申し訳ないのですが、「海をあげる」は読むのが苦しくなるほどの「ノンフィクション」に仕上がっています。

それは上間先生が沖縄生まれの沖縄育ちで、米軍基地を押し付けられた歴史の生き証人であるからです。

また上間先生は、沖縄で若年出産をした女性の調査も行っています。

こうした先生の背景があるため、本作には爆音を轟かす米軍の軍用機や性暴力がてんこ盛りになっており、内地に住む私は目を背けそうになりました。

「海をあげる」とは即ち、沖縄で生きることの絶望をもらう=しっかり見て、耳を傾けるということなのです。

本屋大賞2021「海をあげる」星野源が対談

上間洋子先生と星野源

上間洋子先生と星野源

引用:好書好日

上間先生と星野源さんは、本書が本屋大賞を受賞した際、対談されています。

学生時代に沖縄居酒屋でアルバイトをしていた星野さんは、その時の経験から沖縄への想いが強いそうです。

興味深いのは、上間先生と星野さんが大切にしている「普通」という感覚にまつわる対談です。

星野さんは「普通」は難しいと話します。

星野さんは幼い頃、普通が他の子と違って苦労されたそうです。

それが音楽に出会って自分なりの「普通」を発信できたことから、今のご自身があるそうです。

対して上間先生もまた「普通の目線で沖縄の現実を伝える」ことに一生懸命です。

音楽と文学でトップに立った方々が揃って出したキーワードが「普通」であることは、実に興味深いと思いませんか?

本屋大賞2021「海をあげる」ネタバレ解説

各話ごとに、ネタバレあらすじを盛り込んで、解説していきます。

美味しいごはん

上間先生は夫に浮気され、友達に相談します。

友達は上間先生に「離婚だよ」「絶対に自死しちゃ駄目だと」と口々に伝えます。

夫と話し合い、上間先生は離婚することに。

夫の離婚相手は上間先生の友達で近所に住んでいました。

上間先生は彼女に質問します。

上間先生「なんで私のつくったご飯を食べたの? なんで京都に帰るっていうときに、私に植物の面倒をみるように頼んだの? なんで隣の家に住み続けているの?」

この質問に、彼女は答えず、さめざめと泣き出します。

「離婚するのをずっと待っていた。でも一度も離婚するって言われたことはなかった」

浮気は女同士の友情を断ち切ってしまうんですね、浮気ダメゼッタイ。

こうして上間先生は娘と二人、沖縄で生活することになりました。

沖縄に帰ってから、新しい旦那さんをもらいますけどね。

この話で描かれるのは、友情です。

上間先生の周囲にいる女友達は、とても先生を大切にしてくれます。

それは先生の人柄を表しているんですね。

友達は自分の性格の写し鏡なんですよね。

上間先生は娘の風花に、こう語りかけます。

「あなたの窮地に駆けつけて美味しいごはんをつくってくれる友だちができたなら、あなたの人生は、たぶん、けっこう、どうにかなります」と。

美味しいごはんを作ってくれる友だち……私にはいないです……。

ふたりの花泥棒

上間先生の祖母は怒鳴り散らす、意地悪ばあさんです。

上間先生の妹の具合が悪くなり、先生は祖父母と同居することになります。

祖母はお嬢様育ちからなのか、他人の花壇の花でも綺麗なら摘んでしまいます。

さらに祖父もまた、祖母に喜んでもらうために花壇から花を摘んでしまう”花泥棒”でした。

そんな二人の花泥棒である祖父母との思い出はしかし、無限ではありません。

上間先生の妹が死亡して、同居が終わったからです。

また祖父は癌を発症し、死亡してしまいました。

沖縄で亡くなった方を迎えるのは、沖縄の美しい海でした。

きれいな水

沖縄の水が汚染されてしまいます。

原因は普天間基地から流れる軍事基地の汚染水でした。

さらに年明けから、頭上を爆音響かせて軍用機が飛び交います。

沖縄の人達はみな「どこに逃げたらいいのか分からない」のです。

沖縄の高齢者は大半が戦争の経験者です。

彼等彼女等は皆、大切な人が次々と亡くなる過酷な経験の持ち主でした。

ひとりで生きる

上間先生は風俗で働く女の子を調査しています。

その女の子に援助交際をやらせて稼がせているホストがいました。

上間先生は、そのホストと喫茶店で会うことになりました。

そんなホストと二人きりで会って大丈夫かいな?とは思いますが、先生はプロの大学教授で研究者なので大丈夫なのです。

このホストが無邪気なのですが、狂気を秘めているというか。

行動も考え方も非常識といえば非常識なのですが、それもこれも彼が親に虐待を受けて育ったと分かると、何となく理解できます。

最後のページに出てくる名言が印象的です。

「身捨つるほどの祖国はありや」。

これは上間先生の恩師によれば、「我が身を捨てるほどの祖国なんかない」という意味だそうです。

祖国といえば、同じく本屋大賞の大賞を受賞した「同誌少女よ、敵を撃て」を思い出します(この作品については後述します)。

波の音やら海の音

17歳の若いママへのインタビューです。

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17歳の母親の人生はしかし、過酷極まりないものでした。

この母親は現在、リストカットに変わる”いい方法”を思いついたと言います。

それはゲームに没頭することでした……。

17歳の若い母親に「育児しないでゲームして!」と指摘することは簡単です。

そうやって簡単に罵倒できますが、私達に援助は何もできないのが現状です。

そんな現実を突きつけられた上間先生の耳には、娘の風花の寝息が波の揺れる音のように聞こえたのでした。

優しいひと

沖縄のお菓子に「ムーチー」と呼ばれるお餅があるそうです。

このムーチーを食べると、鬼を倒せるほど元気が出るそうです。

2018年春。

辺野古の埋め立てを問う県民投票が開かれようとしていたものの、五市長(宜野湾市、うるま市、沖縄市、宮古島市、石垣市)が自分の住民には投票させないという行動に出ます。

これに抗議して、運動家の元山さんがハンガーストライキを始めます。

ハンガーストライキとは、食を断って抗議することです……お腹が空くので、私には無理ですが。

ムーチーを”元山君”のもとへ持っていく!と言ってきかない風花。

他の方々も、元山さんへ差し入れするものの……ハンガーストライキなので、食べられません。

そして105時間後、ドクターストップでハンガーストライキは終了しました。

元山さんはしかし、次の手を打っていました。

それは、各市議会ではなく、沖縄県政に訴えるという手段でした。

これが功を奏し、賛成と反対に「どちらともいえない」を加えて3択の投票が行われる結果となりました。

この”ドロッ”とした勝敗の決着のつかなさが、沖縄の歩んできた道なのでしょう。

「やさしい人」とは、元山さんを支えた大勢の市民のことでした。

三月の子ども

娘の風花は母親の上間先生がよく可愛がった育てたお陰で、スクスクと育っています。

そんな風花の保育園の友達を預かることになりました。

彼女の母親は上間先生の友達で、お互いに働いている女同士、助け合うことになったのです。

毎年3月になると、上間先生のゼミ生達が来ます。

ゼミ生の大半は、学校の教員でした。

上間先生の家にやって来た元教え子の女性は、やはり教員でした。

そんな彼女が泣いています。

聞くところによると、何と彼女が勤める学校が突然、休校になったのでした。

彼女は、こう訴えます。

「どんなに子どもとの時間をつくりあげても、よくわからない上の人が、私と子どもの時間にわりこんでくる」

風花の通う保育園では、卒園式が行われていました。

園児たちは皆、大きくなっていきます。

この章は、次の2行で終わります。

三月の子どもは歌をうたう。
大きくなるこを夢見て歌をうたう。
大人たちはみんなでそれを守る。
守られていることに気付かれないように、そっとそおっとそばにいて。

私の花

沖縄で行われた性暴力へのフラワーデモに、上間先生は娘の風花と一緒に参加しています。

調査対象の女性、その加害者は実の兄でした。

辛く苦しい記憶と戦いながら、彼女は「性被害の加害者は兄であるって明記します」と決断します。

そんな彼女もまた、フラワーデモに関心を示します。

上間先生は風花を連れて、フラワーデモへと出かけます。

その手に花はありません。

先生にとっても花は、娘の風花なのですから。

何も響かない

七海は17歳の母親です。

援助交際と風俗で生計を立てています。

従業員を守ってくれて、客が観光客で身バレしないメンズエステ店に就職できました。

しかし仕事で辛い過去がフラッシュバックし、上間先生と精神科を受診することになります。

その精神科の医師が丁寧な診察をしてくれて、七海は大満足です。

ところが。

七海は母子ともに、施設で暮らしています。

その施設職員が、七海のママに全てを話すと方針を決定してしまいました。

七海はママと折り合いが悪く、一人で生きてきました。

しかし施設職員は施設の運営方針もあったのでしょう、七海のママを無視して事を進めることができません。

そして七海は泣く泣く、精神科の受診をあきらめます(ママは理解してくれないので)。

さらにメンズエステの店長とケンカしてしまい、店も辞めることに。

再就職したメンズエステは地元の客が多いため、身バレの恐怖にさらされながら、生きていくしかありません。

それでも七海は2か月間、必死で働いて貯金して、施設を出ていくのでした。

空を駆ける

上間先生の祖母が亡くなりました。

祖母は母親と仲が悪かったのですが、晩年は母親も祖母の介護で歩みよります。

認知症と介護。

そして死後、人はどこへ行くのか?

上間先生のお話には人の死後に関わるエピソードが多いのが特徴です。

これは生きている沖縄の人々が、米軍基地や性犯罪に悩まされていることと無関係ではないでしょう。

せめて死後は、人間の魂は肉体から自由になることを祈って――そんな上間先生の声が聞こえます。

アリエルの王国

普天間基地のため、沖縄の青い海に土砂が投入されます。

上間先生と娘の風花は、反対の集会に参加します。

集会では、いつもは厳しい警察官達も、その厳しさが影をひそめていました。

アリエルとは、リトルマーメイドの人魚のキャラクターです。

風花はアリエルに憧れ、いつかアリエルになって青い海で泳ぐのが夢になっています。

個人的には「ガマフヤー」(墓を掘る人)の具志堅さんが印象的でした。

基地になっている場所には、戦争で亡くなった400人の方々が土の下で眠っているそうです。

一日でも早く、ご自身のお墓で安らかに眠れる日が来るのを願わずにはいられません。

海をあげる

上間先生は東京で暮らしていた頃、軍用機の爆音が聞こえないことに驚かせたそうです。

そして東京の人――本土の人々の無関心が、上間先生を初めとする沖縄の方々を全く理解していないことに気がついてしまいます。

上間先生「あなたの暮す東京で抗議集会をやれ」

米兵による性犯罪。

米軍基地で働いている人も多い沖縄県民の苦悩と分断。

辺野古基地完成までは100年かかり、ずっと土砂が海へ投入され続ける事実。

「沖縄の人達が何度やめてと頼んでも、青い海に今日も土砂が入れられる」

「差別をやめる責任は、差別される側ではなく差別する側のほうにある」

上間先生は最後に、そう私達に問い掛けます。

本屋大賞とは書店員が選ぶ

本屋大賞は「新刊を扱う書店の書店員」の投票によって候補作と受賞作が決まります。

2004年に設立されました。

運営はNPO法人・本屋大賞実行委員会です。

2022年の受賞作一覧をご覧ください。

2022本屋大賞受賞作一覧

2022本屋大賞受賞作

2022本屋大賞受賞作

2022本屋大賞受賞作2

2022本屋大賞受賞作2

本屋大賞2022の受賞作紹介

本屋大賞2022の受賞作は、次の記事で紹介していますので、ご覧ください。

本屋大賞「同志少女よ敵を撃て」ネタバレあらすじ最後解説!実話でない

本屋大賞「同志少女よ敵を撃て」登場人物と作者紹介!文庫化と漫画化

本屋大賞2022六人の嘘つきな大学生ネタバレ考察ヨウイチ解説

本屋大賞2021「海をあげる」みんなの声

著者の怒りと悲しみが痛いほど分かる。「海をあげる」とは何かロマンチックなことかと思っていたら、最後の数ページで、著者の怒りと悲しみがこのフレーズで凝縮されて伝わってきた。あの、青く澄んだきれいな海を、民意を無視してまでも米国のご機嫌ばかり取って、汚い土砂で汚して埋めようとする政府には強い憤りを禁じ得ない。
引用:アマゾン

沖縄の持つ独特な問題をどう見るのか。沖縄で生まれ、沖縄で生活する。「沖縄の暮らしのひとつひとつ、言葉のひとつひとつがまがまがしい権力に踏みにじられる」なかで、何を思い、そしてどう生きていくのか。
引用:アマゾン

「インタビューが終わると海が見たくなる」と著者は言う。
未成年者の母親の調査後、海に立ち寄るという。
これは声なき声だった。
湧きあがらせた声だった。
貰う、貯める….
海は流してくれるのか。
引用:アマゾン

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