小説ゾンビ3.0は日韓同時刊行されたバイオホラーにして傑作のミステリー小説です。
「パラサイト・イヴ」の瀬名秀明先生が「これはパラサイト・イヴの2.0だ!」と発言したことで有名になりました。
題名どおりゾンビがテーマなのですが、ミステリーの要素多めです。
「いつ、誰が死ぬのか!?」という緊張感の中、ゾンビ化の原因や謎の刑事の正体を探っていきます。
”ゾンビ小説”とは聞き慣れませんが、石川先生の力で傑作のエンタメに仕上がりました。
とはいえ、「ゾンビものは小説との相性が悪い!」と食わず嫌いが先行してしまうのも、よく分かります。
そこで今回はまず、ゾンビ3.0に興味がある全て方に向けたあらすじをご紹介します。
そして2章からは、既読の方に向けたネタバレ解説を行っていますので、未読の方はご注意ください。
作者の石川智健先生のご紹介もありますので、最後までお楽しみください。
小説ゾンビ3.0のあらすじ紹介
主人公の百合は獣医で、予防感染研究所に勤めています。
彼女は多発する重大事件が気になっていました……。
研究所に出勤すると、日曜日なのに全所員の8%にあたる40人が出勤していました。
管理人の高齢者、市川。
感染病理部の下村。
傲慢ながら優秀な医学博士、加瀬。
百合はWHOのホームページで、次のような文面を見つけました。
「原因不明の病気蔓延によって、人が狂暴化する可能性。当局が警戒」
紛争地域で、まるでゾンビのようになった人間が、他人を襲っているのです。
しかし、紛争地域のおいて、人が人を襲う行為や殺人は当たり前のため、それ以上の進展はありませんでした。
そんなとき、ニュースで日本でもまるでゾンビと化した人々が他人を襲っているというニュースが飛び込んできます。
百合がそのニュースを見るやいなや、外はゾンビと化した群れが跳梁跋扈する事態に!
百合を含めた所員達は、安全な研究所に立て籠もることにします。
そこに、マジンガンで武装した刑事、一条が現れました。
一条は敵ではなそうですが、何かを秘密にしていそうで……。
さらに、ゾンビマニアの大学生・城田が研究所に逃げ込んできます。
警察は瓦解し、自衛隊は憲法のからみで出動できません……。
しかし、応戦していた海外の軍隊内に、ゾンビ化する兵士が多数、現れ始めました。
彼等は噛まれたわけでも、重傷を負ったわけでもありません。
やっと出動した自衛隊隊員も、謎のゾンビ化が始まってしまいます。
日本、いえ、世界の命運は百合達の研究に託されました。
研究所のセキュリティーがもつのは、あと7日。
はたして百合達はゾンビ化の謎を解き、世界を救えるのでしょうか?
未読の方へ
これより先はネタバレになるので、ぜひ本書をご覧になったうえで、お楽しみください。
ゾンビ3.0は科学の説明は難しいものの、一気読みできる読みやすさなので、本当にお薦めできます!
小説ゾンビ3.0のネタバレ解説!
ゾンビ3.0のネタバレ解説をご覧ください。
ゾンビ化の原因とは?タイトルの3.0に込められたメッセージ
ゾンビ3.0におけるゾンビ化けの原因は”老化”です。
数多あるゾンビ映画やドラマにあふれる細菌ではありません。
老化の原因は、”モジホコリ”という単細胞が引き起こしていました。
モジホコリ
アメーボゾアに含まれる変形菌の一種である。林床の落ち葉や朽ち木の表面など、日陰の冷涼で湿潤な環境を好む。
巨大な多核体の単細胞生物で、モデル生物の一つとして様々な研究に利用されている。引用:Wikipedia
噛まれたり重傷を負うだけでなく、ストレスでゾンビ化するのも、老化に拍車がかかるからなのです。
この辺りの原因究明は、科学に疎い私には正直「?」です。
しかし、”ゾンビの新説”に挑戦する姿勢には好感が持てます。
3.0の意味は、新しいゾンビの感染源です。
……ただまあ、「すでに感染している」はウォーキング・ザ・デットでもあったような……。
下村と城田の決断
クライマックスは、百合が世界にゾンビ化の原因を拡散するシーンです。
しかし、そのためには数多のゾンビがいるエリアを抜けねばなりません。
そのため、下村と城田が人垣になって、百合を先に進めます。
いわゆる「この先は俺を倒してから行け!」状態ですね。
コテコテとはいえ、ナヨナヨした下村とゾンビマニアの城田が命を賭けるシーンは手に汗握りましたよ!
一条の真の狙い
刑事の一条には、真の狙いがありました。
それは、殺された妻と子どもの復讐だったのです。
復讐相手は、研究所の研究員である加瀬です。
一条はゾンビになってしまうも、加瀬を倒します。
この復讐劇で「ゾンビになると、低次の欲求しかなくなる」というルールを、作者は上手く捌いています。
つまりゾンビになった一条は、低次の欲求=家族の復讐のため、加瀬を襲って殺したのです。
しかし、家族の復讐相手が都合よく主人公の同僚……苦しいですよ、作者さん?
小説ゾンビ3.0の感想
ゾンビ3.0はただのホラーではなく、”バイオホラー”です。
そのため、難解な科学解説が出てきます。
それでも最後まで、飽きることなく、一気読みしました。
それは次が原因だと思います。
- タイムリミットものである
- 常に緊張している
- 「次は誰が死ぬのか?」が分からないハラハラドキドキ
ゾンビものの王道を外していないのが、成功の鍵となっています。
特に本書を最後まで読んで感動したのが、次の一文でした。
――人々は、それぞれ全力で戦ったのだ。――
ゾンビがいる世界でもそうでない世界でも、人類が一致団結するドラマは心を打ちます。
本作は間違いなく、心を打つドラマが描かれていました。
石川智健先生紹介!
石川智健(いしかわ ともたけ)先生は、1985年、神奈川でお生まれになりました。
兼業作家で、東洋大学・文学部をご卒業されています。
大学時代にアレクサンドル・デュマの作品と出会い、作家を志れました。
そして2011年、『グレイメン』(応募時タイトル「gray to men」)で、第2回ゴールデン・エレファント賞大賞を受賞。
2012年、同作で小説家デビューされました。
「エウレカの確率」シリーズが有名で、「60 誤判対策室」は舘ひろしさん主演で、ドラマ化もされています。
今後がもっとも期待される小説家のお一人です。
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