「#真相をお話しします」は発行から1ヶ月で11万部売り上げと大ヒットしています。
本作は特にZ世代(現11歳〜25歳)から高い支持を得ています。
Z世代の小説離れは有名です。
ではなぜ本作は、そんなZ世代に支持されているのでしょうか?
答えは簡単で、Z世代がスマホとSNSに日常生活を支配されている現実に本作が上手くコミットしているからです。
簡単に言えば、本作はスマホとSNSをテーマにしたミステリー小説なのです。
本作は5つの短編で構成されています。
最後の短編である「#拡散希望」は第74回日本推理作家協会賞短編部門を受賞した話題作です。
今回はそんな「#拡散希望」も含めた短編5つ全てのあらすじをネタバレ感想をお送りします。
また作者の結城真一郎先生のご紹介もありますので、ぜひ最後までご覧ください。
※未読の方は、あらすじと作者紹介だけご覧ください。
片桐は中学受験専門の家庭教師会社で、営業のバイトをしています。
”御三家”と呼ばれる進学高校から東大に入った天才大学生です。
片桐はそのプロフィールを武器に、そして給料の良さをモチベーションにトップ営業マンとして大活躍中。
そんな片桐は、御三家を狙う小学生・矢野悠へ営業をかけることに。
矢野家に到着すると、家の前にゴミが散乱しています。
そして埃をかぶった悠のモノらしき自転車が。
片桐がインターホンを鳴らすと、なぜか母親は慌てた素振りで。
ーおかしい、約束の時間のはずなのに。
さらに母親はなぜか、ゴム手袋を外しません。
そして片桐の言葉は、矢野親子に届いておらず……。
片桐「名前は”ゆう”君ですか?」
母親「そうです」
悠はピアノが弾けると履歴にあるのに、頑なに拒みます。
さらに片桐が悠が通っている塾を尋ねると、母親は「電話でスタッフの言ったのに!」と激怒。
彼女は片桐を追い返そうとします。
しかしそのとき悠が、「帰らないで」と。
過去の「公開模試」の結果を尋ねれば、悠の部屋へ探しに行く始末。
ーおかしい、模試の結果が悪くて家庭教師を依頼したはずなのに。
―おいおい、その模試の結果はこの部屋にあるぞ?
疑いを深める片桐。
さらにトイレに行くのを大声を上げて止める母親。
さらに算数の問題を悠に解かせると、全て「110円」と答え……。
そして片桐は、決定的な”証拠”を見つけてしまい……。
―助けてくれ! この母親は……!
”僕”は美容師で、マッチングアプリで女を漁る常連です。
そんな僕は、妙に都合のいい女”マナ”とマッチングアプリで繋がり、実際に会います。
僕にとっての悩みは、娘の”美雪”が大学生らしかぬブランド物を大量に所持していることでした。
僕の妻によれば、美雪はマッチングアプリでパパ活をしている疑いが濃厚です……。
マナは今朝、朝寝坊して、お湯を沸かす時間が無くなったと甘えてきました。
そんなマナは、S字カールと言われるお洒落なカール髪です。
そして彼女は慎重152㎝と小柄な点も、可愛い女性なのです。
対して僕は身長が190㎝近くある長身でした……。
お持ち帰りできる段階になると、マナが「アプリで出会った人を殺す事件が6件も続いている」と言い出します。
これではご破算になる!と危惧した僕でしたが、何とかマナの自宅にまで辿り着けました。
マナ「マッチングアプリで何人の女性と会ったんですか?」
僕「6人かな」
そんな二人はいいムード。
そして僕は、マナの家デシャワーを浴びます。
僕はシャワーヘッドから出た冷水を浴びてしまいます。
忘れ物を思い出した僕が部屋に戻ると、マナの他に男がいます。
美人局だ!
そして僕は部屋に入ったときから感じた違和感の正体に突き当たります。
僕は窮地に立たされて……しかし、冷静です。
僕は美人局にあった窮地を切り抜けられるのでしょうか?
連続幼女誘拐殺害事件の犯人である宝蔵寺と見た目が似ている僕。
そんな僕には、不妊治療を共に頑張った妻の香織と娘の真夏がいました。
僕と香織は研究者でしたが、真夏は両親に似ず、文系でスポーツ抜群の明るい女の子です。
ちなみに血液型は僕がA型、香織がB型、真夏はAB型です……。
僕は不妊治療で苦労した経験から、香織の許可を得て、精子提供を始めました。
そして出会ったのが、美子でした。
美子は顔色が悪く疲れています。
しかし美子は、僕に「明日中に精子が欲しい」と急かすのです。
また美子は、僕に名前を聞きます。
僕は「翼」と正直に答えるのでした。
そして2か月後、唐突にDMで「妊娠できました」と報告と感謝が来たのです。
時は流れ―。
15年後。
美子の娘である翔子が僕の前に現れます。
翔子は僕に、自分の父親を探していると告げます。
「翔子」という名前は、僕の「翼」と母親の「美子」から一字ずつ取ったものでした。
そして翔子は僕に、驚くべき血液型、そして美子が僕をなぜ選び、精子提供を急いだのかを説明して……。
翔子は一体、誰の娘なのでしょうか?
大学時代の友人だった片桐、宇治原、茂木はリモート飲み会を開きます。
片桐は独身ですが、マッチングアプリで知り合った彼女がいます。
その彼女は「ミナミ」と名乗り、婚約者がいるのに、片桐と浮気していました。
実はミナミは今夜も片桐を訪れる予定であり、そのため、片桐はドアに鍵をかけていません。
そんな片桐は二人の友人に彼女がいるのを告げないまま、リモート飲み会を進めます。
茂木は結婚しているものの、嫁は実家に帰っているそうです。
さらに宇治原は恋人にプロポーズしたものの転勤となり、ヤキモキしているのでした。
宇治原は喉を痛めたとのことで、顔画像は映るものの、チャットでの参加です。
ちなみに茂木と宇治原は現在、大阪に転勤でいるとのことです……。
リモートは進み、片桐が冷静沈着であることが語られます。
また宇治原はカッとなると、何をするか分からない男でした……。
東京と大阪のどちらがウーバーイーツが早く届くか、競争することになりました。
宇治原は彼女の浮気を疑い、スマホにGPSを仕込みました。
その宇治原が彼女の浮気相手として疑っているのが、茂木だったのです……。
GPSが何と、茂木の家に向っているというのです……。
さらに茂木の家の背景に、謎の女が映り始めます。
宇治原はその女こそが、自分の彼女だと主張します。
そして宇治原は今から、茂木を殺しに行くと片桐に告げたのです……。
果たして、片桐は宇治原の殺しを止められるのでしょうか?
僕の名前は「チョモランマ」で、匁島へ両親に連れられて移住してきました。
”チョモ”と呼ばれています。
チョモは両親の仕事をウェブのデザイナーと聞かされています。
そんなチョモがテレビを見ていると、田所というユーチューバーが殺害されたニュースが流れます。
チョモは両親にそれを伝えるものの、スルーされます。
そして始まったのは、決まった時間と場所で行われる母親への”一日の振り返り”でした……。
島には他に、桑島砂鉄と安西口紅=通称・ルーがいます。
砂鉄とルーもまた、島への移住者でした。
三人の同級生は唯一、島の生え抜きである凛子がいます。
四人は十歳です。
そんな四人はユーチューバーについて語り合います。
凛子によると、今人気なのは、結成10年目のグループ・はるはうす☆デイズでした……。
しかしチョモと砂鉄は年齢制限で見たことはありませんでした。
チョモの家では”一日の振り返り”と並んで奇妙な習慣があります。
それが入ってはいけない”秘密の部屋”でした……。
またルーの家は大変なお金持ちです。
ある日、凛子が最新のスマホを持ってきました。
それを使って、チョモは初めて、スマホの指紋認証を行いました。
ある日、田所がチョモ達に接触してきます。
剣吞な雰囲気を感じたチョモ達は逃げます。
そして田所は、何者かに殺害されてしまいました。
その日を境に、チョモ達に優しかった島民達の態度が一変してしまいます。
そんなある日。
ルーがチョモの家にやって来ました。
チョモの両親はルーの両親に急遽呼ばれて、不在です。
ルーはチョモに「お茶ぐらい出したら?」と。
チョモは渋々、ルーにお茶を出してあげます。
チョモとルーが話していると、ルーの親から至急帰ってこいとメールが。
ルーはそのメールをチョモに見せます。
時間は、18:12。
帰るルーをチョモが見送ることに。
帰りしな、ルーは忘れ物をしたとチョモの部屋へ引き返します。
その日、凛子が崖から落ちて死亡してしまいます。
事故か他殺か……。
凛子の死に疑問を感じたチョモは、彼女の家へ。
そして凛子の親を説得し、彼女のスマホを見ます。
凛子の生前、チョモはスマホの指紋認証を登録してあったので、彼女のスマホの中を覗けたのですが……。
本作一の驚愕の真実が!
凛子は誰かに殺されたのか!?
※未読の方は、ここでぜひ本書をご覧ください!
|
片桐が見つけた”証拠”とは、公開模試の平仮名で書かれた名前でした。
そこには「やの ”ハルカ”」と書かれていたのです。
”悠”と書いて”はるか”と読むのです。
算数の答えが全て”110”なのは、子どもからの「110番してくれ」というSOSでした。
母親は偽物で、矢野家の本当の母親を殺害してしまったのです。
たまたまその現場に、片桐が営業で訪問してしまったのでした。
しかし、本作が傑作である点は、これだけで終わらず、オチがある点です。
実は矢野家の偽家族は、母親だけではなく、何と子どももだったのです。
矢野家の子どもは数年前に交通事故で亡くなっていたのです。
だから、自転車が埃をかぶっていたのでした。
僕が違和感を感じた原因はいくつかありました。
まず、シャワーの位置が高過ぎるのです。
これは、マナの他に長身の男が利用していた証拠です。
さらに、S字カール用のドライヤーが無かったことから、僕はここがマナの部屋ではないと気付いていました。
駄目押しで、朝寝坊でお湯を沸かせていないはずなのに、マナは入室するなりコーヒーを沸かせたのです。
僕は男に脅されます。
この美人局はこの部屋をねぐらにした組織的犯罪の温床でした。
しかし僕は、バタフライナイフで男とマナを殺害します。
マッチングアプリで出会った女を殺害していたのは、僕でした。
しかし安堵も束の間。
男の遺品となった携帯に、メッセージが届きます。
それは、娘の美冬からの「この部屋を使いたい」というメッセージでした。
美冬もまた、この美人局組織の一員だったのです。
彼女がブランド品を大量に持っていられるのは、美人局で稼いでいるからでした。
この話は誰にも感情移入できない=悪党ばかりなので、読後感最悪でした。
翔子が語った真実で最も重要なのは、精子提供を受けた当時、美子の夫が宝蔵寺の妻だったことです。
彼が逮捕される前日、美子は性交渉を行っていました。
生まれてくる我が子が、連続幼女誘拐殺人犯となった宝蔵寺の子だと思わないように、精子提供を急いだのです。
しかも僕は宝蔵寺と見た目が似ていたので、好都合でした。
美子が突かれていたのは、宝蔵寺が逮捕されてマスコミから逃げていたからでした。
美子が狙っていたのは、翔子に「私は殺人犯の娘ではない」と思わせるためでした。
父親をハッキリさせたい翔子のため、私は血液検査を受けます。
するとA型だと思っていたのが、実はB型だったのです。
美子はO型です。
そして翔子はB型でした。
宝蔵寺の血液型はA型なので、翔子は自分の父親探しに一応の決着をつけました。
しかしそうなると、真夏の血液型が合いません。
そこで僕は、香織が精子提供を受けたのではないかと疑います……。
このパンドラはタイトルも陳腐なら、謎解きもイマイチでした。
取ってつけたように血液型が語られるなど、散々な内容でした。
リモート飲み会というシチュエーションがトリックになっています。
をすえるミナミが片桐の自宅に到着します。
片桐はミナミこそが宇治原の恋人だと見抜き、彼女を詰問します。
その最中に現れたのは、宇治原でした。
宇治原と茂木は手を組んでいたのです、片桐にお灸をすえるために。
ウーバーイーツの配達員を利用して、宇治原は片桐の家に侵入したのです。
茂木の背景に映った女は彼の妻で、実家に帰ったというのは嘘でした。
またリモートだったので、録画した映像を流して、宇治原が大阪にいると片桐に思い込ませる作戦も功を奏したようです。
いや、この話は色々と突っ込み所があり過ぎて完全に駄作です。
最後に宇治原はミナミを殺してしまうのですが、それならばさっさと彼女を拷問すればいいのです。
全ては冷静沈着は片桐を自白させるため……と宇治原は説明しますが、説明ゼリフが延々と続くので、緊張感がありません。
実は茂木も宇治原も大阪に転勤になっていませんが、そんなの、片桐が事前に調べていたらどうするのでしょうか?
自宅のセキュリティの問題など、かなり白けてしまう残念な話でした。
凛子のスマホでチョモが見たのは、YouTubeでした。
その番組は人気の「ふるはうす☆デイズ」。
このグループのメンバーは、チョモ・砂鉄・ルーの両親だったのです。
彼等は結成10年目。
リアルガチを謳う番組。
その内容は、以下のとおりです。
”報告の時間”は、仕込んだカメラでチョモを実況していたのです。
秘密の部屋は、動画を編集するため。
チョモ達は何も知らされず、YouTubeの企画の生贄にされていたのです。
それに気付いた凛子は、ルーに口封じで殺されてしまいました。
大人気のフルハウス☆デイズに接触しょうと、暴露系ユーチューバが動きました。
それが、田所だったのです。
しかし動画のファンに、殺されました。
これを受けて島民はチャモ達を恐れるようになったのです。
ルーがチョモの家を訪れたのは、アリバイ工作のためです。
スマホの時間は手動で誤魔化したのです。
さらに、チョモの家の時計にも細工をしました。
ルーはそれをチョモがいないときに行う必要がありました。
そのために、お茶を要求したり、忘れ物を取りに行くフリをしたのです。
ふるはうす☆デイズはネタがマンネリ化していました。
そのため「同級生が死亡しました」という動画を上げるため、凛子を殺害。
それを知ったチョモは、ルーに復讐します。
彼女を拘束し、崖の上に立ちます。
そして、ふるはうす☆デイズのチャンネルに侵入します。
チョモは視聴者に語りかけます。
「僕を支持する声が大きかったら、彼女をここから突き落とします」
これこそが、視聴者参加型エンタメの完成形……。
個人的に「#拡散希望」が本作で最も御気に入りです。
物語の盛り上がりは素晴らしい。
そして、謎解きも綺麗にやられました。
古典的ではなく、SNSや動画プラットフォームをテーマにしたのも高評価です。
何より、小学生同志の命の奪い合いを恐ろしく思いました。
そういう時代なのでしょうか?
結城真一郎先生は、神奈川県で1991年に生まれました。
東京大学を卒業されています。
2018年、「名も無き星の哀歌」で第五回新潮ミステリー大賞を受賞、デビュー。
これまで、以下の作品を執筆しておられます。
プロジェクト・インソムニア
救国ゲーム
私は現在「名も無き星の哀歌」を拝読中です。
|
こちらも本作と同様、フワリと宙に浮いたような作風ですよ。
2021年、#拡散希望で第74回日本推理作家協会賞短編部門を受賞されました。
本作が今年の本屋大賞を受賞することを祈っております。