直木賞は有名な文学賞ですが、それに「高校生」がつくと途端に「?」となってしまいます。
高校生直木賞とは何だか耳慣れない言葉です。
ところが、高校生直木賞が今、空前のブームとなっています。
その原因は、2022年に選考が行われた第九回で評判の「同志少女よ、敵を撃て」が大賞を受賞したからです。
この大賞によって「同志少女よ、敵を撃て」がメディアに出る度に「高校生直木賞」の露出が増えたのです。
そこで今回は、今話題となっている高校生直木賞について調査しましたので、ご覧ください。
高校生直木賞いつから?
引用:高校生直木賞HP
高校生直木賞は2014年から始まりました。
2014年の第一回を皮切りに、2022年まで毎年開催されており、第九回を迎えています。
高校生直木賞の創設者
高校生直木賞の創設者は、明治大学文学部准教授で文芸評論家の伊藤氏貴先生です。
伊藤先生は早稲田大学・第一文学部を卒業し、日本大学大学院修士課程を修了されています。
引用:www.meiji.net
伊藤先生はインタビューで、次のように指摘しておられます。
近代藝術の最大の特徴は「私」にあったといってよいでしょう
引用:明治NET
この指摘は重要です。
「私」=「個人」というふうに解釈すると分かりやすいかもしれません。
日本文学、とりわけミステリーは、個人を描く文学でした。
例えば、優れたミステリーには必ず、金田一耕助などの魅力的な探偵役がいました。
高校生直木賞の受賞作にもそれは顕著に表れており、伊藤先生と最近の高校生達との親和性は高いと言えます。
直近の大賞受賞作である「同志少女よ、敵を撃て」は戦場モノであるため、群像劇の一面を持っていますが、他方で主人公・セラフィマの内面と人生を描き切った良書でした。
こうした文学を「私」=「個人」として追及する伊藤先生と高校生達がシンクロし、高校生直木賞は盛り上がりを見せているのです。
実行委員会
賛助会員
参加校
高校生直木賞の決め方ですが、公式HPから直接、申し込みます。
必須条件
①学校単位での応募
②担当教師あるいは学校司書による応募
③協議を複数で行えること
参加費は無料です。
また高校生直木賞の候補となる書籍は、委員会が書籍代を払ってくれるようです。
なお、応募多数の場合は抽選になる可能性があるため、注意が必要です。
決め方
決め方を1つ1つご説明します。
前項の手順で選ばれた学校に実行委員会から書籍を買うための図書カードが送られてきます。
それからの決めた方を次のように箇条書きでまとめてみました。
自分の学校で対象となる図書を回覧
↓
校内の予選会開催
↓
回覧した図書への評価(〇、×、△をつける)
↓
生徒の代表者1名を選出
↓
校内で議論⇒高校生直木賞を決める
↓
夏休みにオンライン討論会
歴代の受賞作品一覧とお薦め
歴代受賞作と個人的にお薦めの一冊を厳選してお伝えしていきます。
第1回&第2回高校生直木賞一覧とお薦め作品「満願」
お薦めは「満願」です。
米澤穂信先生の集大成ともいえる傑作です。
米澤先生といえば「折れた竜骨」で第64回日本推理作家協会賞を受賞されています。
満願は短編ながら、深く人間の業を描いたミステリー小説です。
米澤先生の長編とは一味違った切れとコクを堪能できます。
なお本作は、山本周五郎賞を受賞しています。
第3回&第4回高校生直木賞一覧とお薦め作品「十二人の死にたい子どもたち」
お薦めは、「十二人の死にたい子どもたち」です。
ミステリーで、群像劇です。
作者は、冲方丁先生です。
自死サイトで知り合った少年少女12人が自死を目的に、ある病院の一室に集合します。
しかし、その部屋は密室状態に……というクローズドサークルものになります。
きな臭い作品と思われがちですが、爽やかな青春モノに切り替わる瞬間には「アッ!」と思わず声が出てしまいます。
血や殺伐としたシーンが苦手な方でも、楽しめる一冊に仕上がっています。
漫画化も映画化もされた話題作です。
冲方丁先生は、「マルドゥック・スクランブル」で第24回日本SF大賞を受賞されており、こちらもぜひ、お読みください。
第5回&第6回高校生直木賞一覧
第7回&第8回&第9回高校生直木賞一覧とお薦め作品「同志少女よ、敵を撃て」
お薦めは何といっても、「同志少女よ、敵を撃て」です。
逢坂冬馬先生のデビュー作です。
時は、第二次世界大戦です。
独ソ戦争下のロシアが舞台です。
母親の命をドイツ兵に奪われた少女・セラフィマが狙撃兵となって、修羅場と化した戦場を乗り越えていきます。
単純な復讐モノでも成長モノでもなく、伏線回収が見事なミステリーです。
2022年の本屋大賞の大賞に、見事に選ばれました。
「同志少女よ、敵を撃て」のネタバレあらすじ紹介や登場人物紹介は、次の記事をご覧ください。
本屋大賞「同志少女よ敵を撃て」ネタバレあらすじ最後解説!実話でない
本屋大賞「同志少女よ敵を撃て」登場人物と作者紹介!文庫化と漫画化
高校生直木賞と直木賞の違い
高校生直木賞と直木賞の違いは、選ばれた本の違いです。
高校生直木賞に2014年から2022年に選ばれた作品は、これまで見てきたとおりです。
では、同じ期間の直木賞を見ていきましょう。
高校生直木賞と直木賞で被る作品といえば、次の5冊ぐらいです。
ファーストラヴ:島本理生先生
テスカトリポカ:佐藤究先生
塞王の楯:今村翔吾先生
黒牢城:米澤穂信先生
テスカトリポカ:佐藤究先生
この受賞作の違いは、選ぶ人の感性と瑞々しさ、人間の深さといった点でしょう。
どちらがいい悪いではなく、選ぶ方々の年代が違うだけで同じ「直木賞」といえど、こうも違ってくるのです。
とはいえ、2022年の第9回は「塞王の楯」と「黒牢城」が二作品とも被っています。
若い高校生の完成がプロのそれに近付いたのか?
ベテラン選考委員達が、若返りしたのか?
もしくはその両方かもしれません。
個人的には、全く違う作品が選ばれても面白いと思います。
何はともあれ、高校直木賞は目が離せない文学賞になってきたのです。
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